【 考 察 】
『全国・関ブロ長野大会の鑑賞の研究授業と栃木県中学校美術部会研修会の鑑賞の授業の私的検証』
〜 改 善 点 を 模 索 す る 〜
長野大会の報告をしようと考えていたのですが,鑑賞について自分の頭の中を整理するつもりで,先日行われた栃中教研美術部会での
鑑賞の授業と比較しながら感想などレポートします。
なにぶん私的な検証ですので,あまり裏付けはありませんが,これまでの考えをまとめてみたいと思います。
<2つの授業の内容>
長 野 大 会 | 栃木県・美術部会研修会 | |
題材名 | 行く秋 〜東山魁夷の秋色を味わう〜 | 交流から生まれる鑑賞 〜見る・考える・話す・聞く〜 |
ねらい | ・東山魁夷の作品に思いを寄せ,作者の心情や意図, 表現の工夫に興味を持ち,積極的に感想を述べるなど して,作品の見方を深めようとする。 ・東山魁夷の作品を鑑賞して,心情や意図,表現の工夫 などを理解し,グループ内でのギャラリートークの場面 などで感じたことを発表しあいながら,作品のよさや美し さを幅広く味わうことができる。 |
・様々な作品に触れ,味わい,鑑賞の楽しみ方を身に付け ることで,鑑賞活動を愛好し心豊かに生活していく態度を 身に付けようとする。 ・自分の見方や感じ方に基づいて,美術作品などを想像力 を働かせて見ることで感動や印象を受けたり,よさや美し さや創造の楽しさを味わったりして鑑賞する喜びを味わう ことができる。 |
授業の 概 要 |
・美術館での授業。 ・班ごとに違った作品を鑑賞。 ・生徒は事前に作品のコピーに自分で感じた色を着色。 ・授業では,自分の色と作家の色を比較しながら, 色彩を中心に意見交換。 ・学芸員との対話や解説 ・授業は各班の代表生徒が進行して進める。 |
・1枚の作品を美術室にて全員で鑑賞。 ・第一印象を一斉に記入させる。 ・絵の前に車座になり,第一印象を発表しながら 対話型鑑賞を行う。 ・授業は教師がナビゲートする。 ・全体の後,部分で見て,それぞれが気になるところを, どうして気になるのかを中心に発表してもらう。 ・最後に,自分の解釈,感想を記入してもらう。 |
授業研究 会で協議 されたこと や助言者の 指導などの およその 内容 |
・生徒同士の話し合いの中で,自分の意見が言える生徒 が出てきた。生徒の意見の変容が見られた。 ・本物の怖さはないだろうか。本物も見せ方によっては, 絶対的なものになってしまい,生徒が自分の感じたことを 大切にして解釈を作り上げていくことの邪魔をすることもあ るのではないか。 ・学芸員の解説がの中で,東山さんと自分で色をつけた 作品を比べさせ,「どちらがよかった?」と問いかけたとき, 当然のように「東山さん」と答える班もあった。投げかけ方 に工夫を。 ・生徒がのびのびと意見を言う場面がやはり必要だろう。 しかし特殊な条件でもあるので,出にくいのは仕方がな い。 ・学芸員は作品の「知」の部分についてはプロ。先生は,生 徒とのコミュニケーションや授業のプロ。お互いのいいとこ ろを組み合わさるような展開がより効果を発揮するのでは ないか。 |
・対話型の基本的な進め方で分かりやすかった。 ・作品が,親しみやすかった。発想が広がりやすかった。 ・全員の所感をいうことはできそうだが,その後,意見を 集約しながら対話を進め,生徒なりの解釈を作り上げ ていくプロセスを今後みなさんでぜひ研究して欲しい。 ・時間をおいてまた見てみると,解釈が深まる場合もある。 ・栃木県のテーマ「生活に生きる美術」にせまる言葉を 最後に言うとよかったかも。 ・アレナスについての質問など。 |
◆私的検証◆ ここから先は,私的な検証ですので,興味のある方はご覧ください。
<それぞれの授業で良かった点や課題と思われるところ>
長 野 大 会 | 栃木県・美術部会研究会 |
・色彩を中心に作者の制作意図を紐解くという視点は,とても良か ったと思います。 ・色彩が中心ということで,生徒が考えるポイントが絞れていたのも 良かったと思います。意見が出しやすかったと思います。 ・授業者,学芸員の作品に対する思いが強かったこともあるのか, やや価値観の押しつけのような投げかけもあり,そのため, 生徒の思考がストップする場面がみられました。 ・生徒のナビゲーターという試みは面白いが,あまり機能していな かったように思えます。また,活動の内容の違う彼らの評価は? ・もしかしたら,この授業,「東山さんはすごい」という感想で終わ ってしまった生徒もいたのではないでしょうか。 |
・対話型の基本でもある「対話」の部分がうまかった。 生徒の意見をじっくりと聞き,意見を無駄にしないという姿勢が 現れていたと思います。 ・全体をみたり,部分を見たりすることで,生徒が次第に作品に 引き込まれていったような気がします。 ・意見を集約しながら,キーになる言葉からテーマを投げかけて 切り返すこともあってよかったと思います。 ・助言にもあったように,自分の解釈を持ったり,よさや美しさを感 じ取らせるために,どう投げかけていくかが工夫のしどころだと 思います。 ・所感は全員に言わせる必要はなかったと思います。ただ,所感 がどう変わっていくのかに重点を置いている場合は別かも知れ ませんが・・・。 |
○考察
まず,長野大会ですが,授業中も,授業研究会でも感じたことがあります。それは,学芸員の方も言っていましたが,
「この美術館にせっかく来て頂いたのだから,何かを得るもの得て帰って欲しい。」という言葉からも分かるように,どうし
ても知識的な内容を教えることに目が行きすぎてしまっているように感じたことです。
大人はそうした解説を聞いても,楽しめると思いますが,生徒はどうでしょうか。ただ,気持ちは分かります。授業でも,
どうしても,言い過ぎてしまうことがあります。時間の制約もあるので,生徒の意見を待っていられない場合もあります。
でも,ここは,「生徒に知識的な得るもの」を持って行ってもらうというより,「作品をとおして生徒が感じた思い」を持って
行ってもらうことに重点を置いた方がいいかも知れません。というのも,その思いを持って行ってもらえれば,きっとまた
彼らが東山さんの作品に会いに来ると思います。もう少し成長した彼らが,今度は自分の思いを確認しながら知識を
入れていけば,より作品への思いが深まるだろうと思うからです。
また,色彩に注目させたのはよい視点だったと思います。きっと生徒達は,この授業をきっかけに,「色彩」につい
て,より考えるようになったのではないかと思います。
栃木の研究会ですが,実際は2時間扱いの最初だったので,意見を出させるだけでも良かったかも知れません。
1時間で解釈まで行くには少し難しかった気がします。さて,鑑賞した作品ですが,生徒の意見が広がりそうな作品でした。
研究会の後,作者の意見というか考えを伝えるべきかどうかで,話し合いました。先生も言われていたとおり,この場合は
なくてもよかったと思います。ただ,生徒が聞きたくなったときは,最後の最後で教えてもいいかも知れません。その時は,
他の生徒の解釈が無意味にならないよう配慮が必要ですが・・・。また,同じ学年の生徒だけでなく,他の先生の感想なども
紹介すると面白いかも知れません。大人が見たら・・・というのも,生徒にとっては気づかなかった観点に気づかせることに
なるかも知れませんので。また,研究会でもでていた人数の問題は,私の他のレポートでも書いたように,多いと難しいです。
なんとかよい工夫はないかと思っています。長野のように,グループに一人ずつ先生や学芸員さんがつければいいのですが,
そうも行きませんし,生徒にやらせるには,ナビゲートの仕方を相当鍛えないと深まらなくなるので注意が必要です。
○おわりに
美術館と教室の違いはあれ,同じ鑑賞として考えてみましたが,少し無理があったかもしれません。
2つの授業で言えることは,どちらも作者の制作意図や心情に迫るところで,少し弱かったような気がするところです。
というのも,対話や説明などにどうしても目が行っていまったためではないかと思います。
また,共通して感じたことは,やはり,方法論が先に出てしまってはどうだろうと感じたことです。
つまり,長野は「美術館との連携」,栃木は「対話型」が最初からありきの状態で研究が進んでいったように思いました。
思えば,2年前の関ブロで自分がやった授業も,最初に「対話型」や「触察」という方法がまずあったような気がします。
本当はどうなんでしょう。
まず,授業のねらいがあって,そのねらいを達成するために作品を選んで,そして,その作品からねらいに近づける
ためにどんな方法で鑑賞すれば効果的なのか,と進めることも必要なのではないでしょうか。
自分自身もそこを課題に今後も取り組んでいこうと思います。
しかし,とりあえずは2月の研究員会。対話での授業をすることになっています。
県教委の先生から出されたテーマは県の研究授業でも出たように
「生徒なりの解釈を作り上げていくプロセスを工夫する」こと。
でも,まずは「対話型」を広く周知していこうということらしいので,あまり肩肘張らずに行きたいと思います。
2006.12